チロメル25mcgは甲状腺機能低下症のほか、粘液水腫、クレチン症、慢性甲状腺炎、甲状腺腫などの治療にも使用される甲状腺ホルモン製剤です。
甲状腺ホルモンはエネルギー代謝や循環、内分泌機能、生殖など、全身の代謝を活発にするホルモンで、喉元にある甲状腺と呼ばれる器官から分泌されます。正常な状態では、脳下垂体から出る甲状腺刺激ホルモンの作用によって適度な分泌量になるようにコントロールされていますが、何らかの原因により甲状腺ホルモンの合成や分泌機能の一部もしくは全部が障害された結果、血中甲状腺ホルモンが低下し、それによって起こる身体症状が甲状腺機能低下症です。
全身がエネルギーを利用できなくなるために、無力感、皮膚の乾燥、低体温、眠気、体重増加、便秘、脱毛、易疲労、記憶力低下などの症状がみられますが、機能低下が軽度の場合は症状も明らかではないため、発見が遅れることもあります。また症状が重度になると、粘液水腫と呼ばれる、指で押してもへこんだままにならず、すぐに元どおりになる粘液状物質でできたむくみが、顔や四肢を中心とした全身に生じることもあるようです。
甲状腺機能低下症が起こる原因には、慢性甲状腺炎などによる原発性甲状腺機能低下症のほか、クレチンン症(先天性甲状腺機能低下症)や異所性甲状腺腫など先天的な原因、産後やヨードの過剰摂取などによる一過性のもの、術後甲状腺機能低下症やアイソトープ治療後甲状腺機能低下症など、甲状腺の病気の治療に起因するものなどがあります。
原因が一過性であれば、その原因を解決することで甲状腺機能の低下はほとんど回復しますが、それ以外の場合は不足している分のホルモンを補うことに治療の重点が置かれます。その薬物治療に使用される薬のひとつが、チロメル25mcgです。
甲状腺ホルモンには、甲状腺から分泌されるサイロキシン(T4)と、末梢組織でT4の脱ヨードにより産生されるトリヨードサイロニン(T3)があります。このうちT4は、血中たんぱくとの結合が強く、半減期は1週間前後(低下症の場合は9-10日前後に延長)で、一方のT3は、たんぱくとの結合が弱いため血中半減期は約1日と短いですが、生体で強い活性を示し、甲状腺ホルモンとしての効果を担っています。チロメル25mcgの有効成分であるリオチロニンナトリウムは、T3を補充する薬剤です。
T3は服用後の吸収が速く薬効も強い反面で、半減期が短いために頻回の服用が必要であり、血中のT3濃度が一過性に正常値より大きく上昇することがあります。またT4は、半減期が長く肝臓や腎臓などで徐々にT3に変換されるため、適切な量を服用することにより生理的な血中濃度が継続的に維持されます。そのため、主にT3抑制試験や粘液水膜昏睡の治療など、急性効果を期待する特殊な場合には効果を発揮しますが、甲状腺機能低下症での補充療法にはT3単剤では積極的に使用されていないのが現状です。