アシビル分散性錠剤400は有効成分をアシクロビルとする抗ウイルス薬で主にヘルペスウイルスによる感染症の治療、及び再発予防に用いられています。
ヘルペスウイルスによる感染症は、ウイルスのタイプによって単純ヘルペス感染症と水痘・帯状ヘルペス感染症に大別されています。どちらの感染症も痛みを伴った水ぶくれの発生を特徴としますが、単純ヘルペス感染症が体の一部に局所的に現れるのに対し、水痘・帯状ヘルペス感染症による水ぶくれは体の片側に広範囲に現れるのが特徴となっています。
単純ヘルペス感染症には、口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、カポジ水痘様発疹症、核膜ヘルペスなどがあります。その代表的なものである口唇ヘルペスは、その名が表すように口や唇の周りに痛みや灼熱感を伴って発生する水ぶくれのことです。別名「熱の華」、「風邪の華」とも言われるように体力や免疫力が低下した時に発生し、赤みや痛みを伴いますが、たいてい2週間ほどで自然治癒していくという性質を持っています。
また、近年感染者数が増加しているとされる性器ヘルペスも単純ヘルペス感染症の一つです。主に性行為によって感染しますが、場合によっては口唇ヘルペスのウイルスが性器に感染することによって発症することもあります。
感染すると、掻痒感、灼熱感、痛みなどと共に男女生殖器付近に赤い湿疹や水ぶくれが発生し、それが壊れて潰瘍となります。特に初感染時においては女性においては排尿困難になるほどの強い痛みを伴い、発熱を伴う事もあるとされています。同時に足の付け根のリンパ節に腫れや痛みが認められます。通常は3週間程度で自然治癒するとされていますが、再発しやすいといった傾向があり、実際に感染してから1年のうちに感染者の約8割において再発が認められるとされています。
幼児期、学童期の子供によく見られるみずぼうそうは、帯状ヘルペス感染症の一つです。強い痒みを伴った水ぶくれが全身に発生し、場合によっては発熱を伴うこともあります。大抵の場合、発症から10日から2週間ほどで完治するとされており、また発症に伴い抗体が生成されるため、再度みずぼうそうにかかるということはありません。しかしみずぼうそうを発症させたウイルスは神経節に潜伏感染し続け、体力や免疫力が低下した際に帯状疱疹として発症することがあります。帯状疱疹は、神経痛のような痛みと共に体の片側のどちらかに赤い帯状の斑点が発生し、水ぶくれに進展します。形成された水ぶくれはびらんや潰瘍を形成しながら徐々にかさぶたへと変化し、3-4週間で治癒していき、それに伴い痛みも消失していきます。単純ヘルペス感染症と同様、体力や免疫力の低下時に発生しやすいとされており、比較的高齢者における発症率が高いとされてきましたが、近年では20-30代での発症が増えていることから、ストレスも発症誘発要因の一つとされています。
ヘルペスウイルスは感染力が非常に強く、飛沫感染のみでなく接触感染によっても感染するという特徴を持っています。また、感染後は三叉神経節というところに潜伏するため、体力や免疫力の低下に伴い再発するうえ、再発の際にウイルスが神経を経過してでてくるため痛みを伴うという特徴があります。
このヘルペスウイルス感染症の治療にはその増殖を抑える抗ウイルス薬が用いられます。
ウイルスとは、たんぱく質で構成された殻の中にDNAかRNAのどちらかの核酸を含んだ、非常に微小な構造体のことです。他の微生物と異なり、自己増殖を可能とする細胞を持っていないため、他の生物に寄生し、その生物の細胞の増殖機能を利用して増殖していきます。そのため、ウイルスのみを攻撃することは非常に難しいとされてきました。
アシビル分散性錠剤400の有効成分であるアシクロビルはヘルペスウイルスのDNA合成過程を阻害することによって、ウイルスの増殖作用を抑制します。
DNAはアデニン、グアニン、シトシン、そしてチミンの4つのヌクレオチドの組み合わせから構成され、その中のグアニンは、デオキシグアノシン三リン酸という形態でDNAに組み込まれています。このデオキシグアノシン三リン酸をウイルスのDNAに組み込む役割を果たしているのが、ウイルスのDNA複製酵素となるDNAポリメラーゼですが、アシクロビルはこのデオキシグアノシンに非常によく似た構成を持っている物質であるため、デオキシグアノシンの代わりに自己をウイルスのDNAに取り込ませ、DNAの複製を不可能とさせます。また、DNAポリメラーゼには一旦ウイルスDNAに組み込まれたアシクロビルを取り除く作用はありません。
また、アシクロビルは体内に吸収されたあと、ウイルス独自のチミジンキナーゼという酵素によって初めて活性させられるうえ、宿主となる人間のDNAポリメラーゼはデオキシグアノシンとアシクロビルの微妙な違いを見分ける能力が備わっていることから、正常な細胞のDNA複製にほとんど影響を与えずに、ウイルスの増殖を抑制し、症状をコントロールすることができるとされています。
しかし、アシクロビルは三叉神経節に潜伏感染しているウイルスを除去する効果はないため、再発に際してその都度根気強く治療を繰り返す必要があるとされています。
アシクロビルは人類初の抗ウイルス薬として開発され、現在では内服薬としてはもちろん、外用薬や点眼薬、そして点滴の形態でも用いられています。
感染された細胞内でのみ活性化させられてその効力を発揮するため、健常な細胞における影響がほとんど認められず、その効果と共に安全性も保証されています。
小量の水や唾液で崩壊する分散性錠剤であるため、高齢者や小児、そして嚥下障害のある人においても服用しやすい形態となっています。
その反面、経口服用による吸収率が低く、また半減期が約3時間と短いため、1日頻繁に服用する必要があります。また、高用量の使用が必要とされる場合には、内服薬ではなく、点滴による投与が適切とされています。
アシクロビルを成分とする薬剤には、ゾビラックス錠・ゾビラックス軟膏・ゾビラックス顆粒(グラクソスミスクライン)、ゾビラックス眼軟膏(グラクソスミスクライン・参天製薬)、アシロミン錠(化検製薬)、ゾビスタット錠・ソビスタット軟膏(長生製薬)、ベルクスロン顆粒・ベルクスロン錠・ベルクスロン軟膏(東和薬品)、ビクロックス錠(Meiji Seikaファルマ・小林化工)、ビルヘキサル錠・ビルヘキサルクリーム(サンド・富士製薬工業)、ビルヘキサル軟膏(サンド)、アシクロビル顆粒40%「タナベ」(長生製薬)、アシビル内服ゼリー(興和テバ・日医工)、アシクロビン錠・アシクロビン顆粒(日本ケミファ・日医工)、ビクロックスシロップ・ビクロックス顆粒(小林化工)、アクチオス錠・アクチオス顆粒(太洋薬品工業)、アストリックドライシロップ(日本化薬)、アシロベック錠・アシロベック顆粒・アシロベックDS(沢井製薬)、ゾビクロビル錠(日本薬品工業)、アシクロビル錠「マイラン」(マイラン製薬)、アイラックス錠(辰巳化学)などが処方薬として取り扱われており、市販薬としては、ヘルペシア軟膏(大正製薬)、アクチビア軟膏(グラクソスミスクライン)があります。
また、海外では、Cyclovir、Herpex、Acivir、Acivirax、Zovirax、Zovirといったブランド名で取り扱われています。
以下に該当する場合、アシビル分散性錠剤400の使用は禁忌とされています。
・有効成分のアシクロビルやその他の成分、またバラシクロビルに過敏症の方
以下に該当する場合のアシビル分散性錠剤400の使用は慎重におこなうようにしてください。
・高齢者
・腎機能が低下している人
アシビル分散性錠剤400の服用は、医師に指示された服用量、服用回数、服用期間を厳守し、服用期間中には、多量の水分を供給するように心がけてください。
服用によって、眠気、めまい、視力障害が引き起こされる可能性があるため、服用中の車の運転や機械の操作などは極力避けるようにしてください。
また、服用によるめまい、たちくらみ、失神などが認められており、特に服用中の飲酒や運動、高温、発熱などがこれらの症状の誘発要因とされています。
そのため、仰臥した姿勢いから起き上がる時はゆっくりと起き上がるようにし、これらの症状が認められた場合には座るか、横になって休息を取るようにしてください。
アシクロビルの服用による光線過敏症が報告されています。日光や太陽灯、日焼けマシーンなどは避け、戸外に長時間いるような場合には日焼けクリームを使用したり、皮膚を露出する服装を避けるようにしてください。
アシクロビルの効用はウイルスを除去するものでも、感染症を根治するものでもなく、また、他への感染を阻害するものでもないことに留意してください。
特に、ウイルスが活性化している時にはコンドームなどの避妊用具を用いていても、パートナーに感染させる恐れがあります。そのため、ウイルスが活性している時の性行為は避けるようにしてください。
高齢者においては混乱、めまい、幻覚といった副作用が引き起こされやすいため、注意して使用するようにしてください。
妊娠中の女性における使用は、医師によりアシクロビルを使用することによって得られる利益が危険性を上回ると判断された場合のみ使用するようにしてください。
アシクロビルは母乳中に排出されることが知られています。授乳中の女性における使用は、医師との相談の上決定するようにしてください。
他の疾患などで医療機関に罹る場合には、医師にアシビル200を使用していることを伝えてください。
処方された用途以外での使用はせず、また他人との共用もお避けください。
子供の手の届かない、乾燥した涼しいところで直射日光から避けて保管してください。
使用期限を超過したもの、及び外装の損傷が認められる場合には使用をお避けください。
以下の薬とアシクロビルとの併用は、腎機能に弊害を生じる可能性があるとされているため、併用においては腎機能の定期的な測定が必要となる場合があります。
・シクロスポリン
・タクロリムス
以下の薬とアシクロビルとの併用によって、腎臓からのアシクロビルの排泄の減少が認められることがあります。ただしほとんどの場合において、服用量の調整は必要ないとされています。
・シメチジン
・ミコフェノール酸
・プロベネシド
上記以外にも他薬と併用する場合には、処方薬、市販薬に限らず事前に医師や薬剤師に相談し、併用による安全性を確認してから服用するようにしてください。
気がついた時点ですぐに服用してください。
ただし、次の服用時間が近い場合は、忘れた分を飛ばして次の服用時間から服用してください。
忘れたからと言って、一度に2回分を服用することはしないでください。
アシビル分散性錠剤400の副作用には以下に挙げる症状があります。
これらの症状や、他に気になる症状が発現、継続する場合には速やかに医師に相談して下さい。
主な副作用
頭痛、めまい、吐き気および嘔吐、下痢、腹痛、発疹や湿疹といった皮膚症状、光線過敏症、疲労、発熱
極稀に起こる重篤な副作用
息切れ、肝機能検査における異常、アナフィラキシー症状や血管性浮腫といった過敏性症状、白血球・赤血球・血小板の減少、混乱、興奮、振るえ、運動失調症、会話障害、けいれん、眠気、幻覚、精神症状、黄だん、肝炎、腎機能障害