ドキシネートは、妊娠中に起こるつわりの諸症状を緩和するための薬です。
つわりは妊娠特有の症状で、妊娠初期に起こる吐き気や嘔吐のことです。全妊婦の80%近くにみられ、出産経験者よりも初産婦に多く、また、双子や胞状奇胎を妊娠している場合には、特に強く現われると言われています。
つわりが起こる原因は詳しくわかっていませんが、妊娠により急増するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)ホルモンに体が対応できない、胎児を異物と認識することによる拒否反応、胎児を育てる体内環境を整えるための急激な変化による自律神経バランスの乱れ、精神的ストレス、などが主な理由として考えられています。
一般につわりは妊娠4-6週あたりに始まり、妊娠8-10週ごろにピークを迎えた後に12-16週ごろに終わりますが、中には出産直前まで悩まされたり、まったくつわりがないなど、人それぞれです。胃のむかつき、吐き気、嘔吐、頭痛、微熱、肩こり、においに敏感になる、食べ物の好みが変わるなどが典型的な症状で、常に何か食べていないと気分が悪くなる「食べづわり」もつわりの症状です。しかし、これらの症状が悪化すると、栄養・代謝障害、体重減少のほか、脱水症、電解質異常、腎障害、脳神経症状などが起こり、治療が必要となる妊娠悪阻(おそ)に進展する可能性もあり、胎児に影響を与えるだけでなく、重篤になれば死に至る可能性もあります。
これらのつわりの症状を改善する薬がドキシネートです。有効成分のドキシラミンは強力な鎮静作用を持つエタノールアミン系抗ヒスタミン薬で、米国で市販されるジフェンヒドラミン以外のほぼすべての抗ヒスタミン薬を上回る抗アレルギー作用を持っていると言われる反面で、妊娠中の人が使用しても胎児への影響が特に報告されていないという安全性を持っています。そのため、アメリカなどでは吐き気や嘔吐、頭痛などのつわりの症状を和らげる薬として一般にビタミンB6と組み合わせて処方されています。
ビタミンB6は、免疫たんぱくの合成や、神経伝達物質の合成にも関わっており、アトピー皮膚炎や花粉症の症状改善のために必要なビタミンでもあります。またビタミンB6にはたんぱく質合成の際のアミノ酸配列作り変えの補酵素としての働きがあり、不足するとたんぱく質が充分に再合成できなくなり、体の組織の形成、維持に悪影響をおよぼします。
例えば、妊婦におけるキサンツレン酸という物質の増加もそのひとつです。妊娠するとアミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝がうまくいかなくなることでキサンツレン酸が増加しますが、これがつわりの発症と関係していると考えられています。キサンツレン酸の増加はビタミンB6の不足が関与していると考えられているため、つわりの症状を軽減するためにはアミノ酸の代謝を正常にするビタミンB6を積極的に摂ることが有効になります。
ドキシネートは強力な鎮静作用を持つ抗ヒスタミン薬のドキシラミン10mgに加え、つわりを軽減させるビタミンB6であるピリドキシンを10mg配合し、つわりの諸症状に対して緩和効果を発揮します。なお眠気を引き起こす作用が強いため、就寝前に服用し、また服用した場合は自動車の運転などはしないように注意してください。