チニバ500は原虫、偏性嫌気性菌、ほとんどの嫌気性バクテリアに対して抗菌効果を発揮する抗生物質で、主に膣トリコモナスなど原虫感染症の治療に使用されます。
トリコモナス症は、トリコモナス原虫が原因で起こる感染症です。感染部位により腸トリコモナス、口腔トリコモナスなどと呼ばれ、生殖器に感染し病原性を示すのは膣トリコモナスのみです。また一般的には膣トリコモナスは女性特有の感染症と思われがちですが、実際は男性も感染する病気で、男性の場合は尿道炎と似た症状を示すために、非淋菌尿道炎と診断されることが多いようです。
膣トリコモナスのほとんどが性交によって感染します。しかし性交経験のない女性や幼児でも感染がみられることから、タオルや浴槽、便器などからの感染のほか、妊婦から新生児への垂直感染の可能性もあると言われています。
男性が感染した場合の症状は、軽い排尿痛、性器のかゆみや灼熱感、尿道から出る分泌物などですが、3週間程度で症状が出なくなることがほとんどです。しかし原虫はそのまま体内に生息し続けているため、治療せずに放置しておくと前立腺炎などを引き起こすこともあり、また性交時に相手に感染することにもなりかねません。
一方で女性の場合の症状は多種多様で、黄色味を帯びた膣からの粘液性排出物、外陰部のかゆみ、刺激感、悪臭などが見られることもあれば、まったく無症状の場合もあります。また女性の場合では、トリコモナス菌がほかの細菌やウイルスを子宮内に運ぶ媒介となるため、HIVのリスクの増加、膣炎、骨盤内感染症、子宮頚がんなどにも関係していると考えられています。
治療は通常、薬物治療が行なわれますが、トリコモナスは70-80%の確率で相手に感染しているため、パートナーがいる場合は同時に治療を開始します。このトリコモナスの治療薬のひとつがチニバ500です。
細胞は細胞分裂を繰り返し、同じ性質や構造を持ったコピーを次々と作り出すことで増殖していきますが、このコピーの原本となるのがDNA(遺伝子)です。 DNAが自身の複製を作成するには、もともと二本鎖である構造を一本鎖へとほどき、それぞれの一本鎖に新しく合成されたDNA鎖を結合させ、新旧の対になった二本鎖DNAを作成することで増殖していきます。チニバ500の有効成分であるチニダゾールは、この二本鎖を切断して機能障害を起こす作用を持ち、その結果として細胞の分裂が妨げられることで細菌の増殖が抑制され、膣トリコモナスには対しては殺虫的に、またバクテロイデス属、ペプトコッカス属、ペプトストレプトコッカス属、クロストリジウム属などの嫌気性菌には抗菌力を示します。
チニバ500のこの作用は、熱帯・亜熱帯地方に多くみられ、下痢や腹痛などを引き起こす原虫感染症であるランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)や、赤痢アメーバが原因で起こる病気で、下痢、粘血便などの症状が現われ、悪化した場合は腸穿孔や腹膜炎を引き起こすアメーバ赤痢(アメーバ性肝膿瘍などを含む)にも有効です。
さらに低悪性度胃リンパ腫の人のヘリコバクターピロリ感染症の治療についても、現在研究が進んでいます。