ジガット点眼液0.3%は、通常、結膜炎や麦粒腫(ものもらい)などの眼感染症の治療のほか、眼手術前後に眼の細菌を殺菌するために用いられる点眼薬です。
結膜炎、眼瞼炎などの外眼部感染症や眼内炎など、眼の感染症の原因の約70%はグラム陽性菌とされています。しかし角膜炎ではいまだに緑膿菌、モラクセラ菌やセラチア菌などのグラム陰性菌も重要であり、眼内炎では嫌気性菌も問題となっています。そのため、広域抗菌スペクトルの薬剤が望まれていることから、現在キノロン系抗菌点眼剤が眼科細菌感染症における一般的な標準選択となっています。
細菌の分類方法のひとつに、グラム色素という特殊な色素に対する染まり方による分類がありますが、このうち色素に青く染まる菌をグラム陽性菌と言います。菌そのものがペプチドグリカンの厚い層におおわれているため、乾燥した場所や暑い・寒い場所などに生息することができ、人の体では皮膚に、また自然環境中においては土中などに多く存在しており、化学的な作用における抗力が弱く、抗生物質が効きやすいという特徴があります。
一方、ピンク色に染まる菌をグラム陰性菌と呼び、これには大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、コレラ、淋菌などが含まれます。物理的要因や温湿度要因に対してはあまり強くありませんが、化学物質から護る外膜を持っているために、グラム陰性菌に対しては抗生物質が効きにくいとされています。また菌体内に、発熱、血液凝固、血圧降下作用などを起こす毒素を持っていることがあり、化学療法などで菌が死滅するとこれらの毒素が放出され、内毒素ショックを引き起こすことがあります。
1960年代に開発されたキノロン系の薬は、長い年月を経て現在では第四世代に至り、第一世代ではグラム陰性桿菌にのみ有効だった効果も、緑膿菌、グラム陽性菌、レンサ球菌属(肺炎球菌)とその適応範囲が拡がっただけでなく、耐性獲得がさらに困難になるなど着実な進化を遂げていますが、この第四世代のキノロン系に属するのが、ジガット点眼液0.3%の有効成分であるガチフロキサシンです。
細菌は自分自身を複製しながら増殖しており、DNA(遺伝子)がその原本となっています。 DNAは二本鎖の構造で、これを一本鎖へとほどいた後に新しいDNAを作成し、今度は新旧の対になった二本鎖DNAを新たに作り出すことで増殖していきますが、これには二本鎖の構造をほどき、そのねじれを取るDNAジャイレースと、同じく二本鎖の構造をほどいて再結合させる働きを持つトポイソメレース4という酵素が深く関わっています。
ガチフロキサシンは、この両方の酵素に対して同程度に強力にその働きを阻害することから、細菌を殺菌するだけでなく耐性菌をつくりにくくする働きがあり、ガチフロキサシンを有効成分とする点眼薬は、眼感染症治療の第一選択薬として大きな期待が寄せられています。
なお、経口剤としてガチフロキサシンは、血糖値異常(低血糖・高血糖)の発現があるとして自主的に販売が中止されましたが、 点眼薬においては全身への移行量が少ないことに加え、日本、アメリカ両方において血糖値異常の報告がされていないため、これらの副作用出現の問題はないと考えられています。
●適応菌種
ガチフロキサシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、コリネバクテリウム属、シトロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、モルガネラ・モルガニー、インフルエンザ菌、シュードモナス属、緑膿菌、スフィンゴモナス・パウチモビリス、ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア、アシネトバクター属、アクネ菌
●適応症
眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫、結膜炎、腱板腺炎、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、眼科周術期の無菌化療法