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2014-06-02
ソース(記事原文):NPR
エストリオールが多発性硬化症の再発を減らす可能性
NPR(2014年6月2日) ― ジョン・ハミルトン(Jon Hamilton)
ずいぶん前から、多発性硬化症(MS)の女性が妊娠するとその間は病状が改善する傾向にあると指摘されています。これが基になって、妊娠と関連するホルモンをMS治療に使う試験が実施されました。
そのホルモンとは、エストロゲンの一種であるエストリオールのことです。女性が妊娠している時だけ体の中に豊富に存在します。4月に米国神経学会(American Academy of Neurology)年次総会で発表された研究では、既存のMS治療薬を使用している女性158人に追加でエストリオールを使用したところ、再発を47%抑えることができました。
今回の試験を実施したカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles : UCLA)の神経学者、ロンダ・ヴォスクール(Rhonda Voskuhl)によると、この結果は「とても素晴らしい」そうです。また、この結果からはエストリオールが現在のMS治療薬の効果を大いに高めると考えられる、とも話しています。現在あるMS治療薬は免疫系を調節するように作られていて、その負担額は1年で6万ドルになることもあります。
多発性硬化症は、神経線維を覆っている髄鞘が障害される病気です。自分の体の免疫細胞が髄鞘を攻撃し始めることが、障害の原因の1つではないかと考えられています。米国にはMS患者が約40万人いて、その症状は筋力低下や筋麻痺から思考困難とさまざまです。
今回のエストリオールに関する新しい研究は、以前からある女性患者らの事例報告にヒントを得ました。カリフォルニア州ウッドランドヒルズ在住のメリッサ・シェラック・グラッサーさん(Melissa Sherak Glasser)も、そうした患者の一人です。グラッサーさんは現在41歳ですが、MSと診断されたのはまだ15歳の時でした。
彼女は、お湯の温度を確認しようとバスタブに手を入れた時に冷たく感じてびっくりしたのを覚えています。「その時にもう片方の手を入れるとやけどするぐらい熱かったから、大丈夫、ちょっと具合が悪いだけだわって思ったの」。
MRI検査の結果、グラッサーさんはMSであることが分かりました。でも、この病気のせいで彼女の行動力が落ちることはありません。再発すると一時的な失明や、めまい、歩行困難が起きたのに、それでも高校ではチアリーダーを務め、大学や大学院にも行き、結婚もしたからです。
20代半ばでグラッサーさんは妊娠。そんなある日、つわりの最中に意外なことに気付きます。MSの症状が消えていたのです。「妊娠ホルモンが総動員の状態ってすごく怖いなあと、笑うしかなかったわ」。
彼女はこれを、MSと診断された10年以上前から経過を観察してくれているUCLAの神経学者たちに報告します。彼らは別に驚きませんでした。その前にもMSの女性患者たちから同じような話を聞いていたからです。それに、妊娠がMSの病状に影響を与えることは1998年に大規模な科学的研究で裏付けられていました。
ですからグラッサーさんが初めて妊娠した頃には(現在彼女には4人の子どもがいて、4度の妊娠中はいつもMSの症状が消失)、ヴォスクールと他の研究者らはすでに、MSの妊婦を守っているのは何なのか特定しようと一生懸命研究に取り組んでいました。「これを解明できれば、大発見に向けて前進できるのです」。ヴォスクールはそう話します。
研究によって、妊娠中は女性の免疫系が変化することが分かりました。「妊娠とはお腹に胎児がいるということであって、胎児の体の半分は父親由来のタンパク質でできています」とヴォスクール。「つまり、半分は異物なんです。半分が異物である胎児を拒絶しないように、母親の免疫系が変化します」。
彼女は、MSの女性患者の神経線維も保護するというこの変化を一体何が引き起こしているのかと思案しました。そして、鍵となっているのはホルモンのエストリオールではないかと考えたのです。
そこで研究者たちはMSのマウスでエストリオールが有用かを確かめようと、マウスにこのホルモンを投与して様子を見ました。ヴォスクールによると、「その通りだった」そうです。「マウスはまひ状態にはならず、元気に歩き回っていました。病状が劇的に改善したのです」。雄のマウスにエストリオールを投与しても、効果はありました。
エストリオールでMS患者を助けられる、彼女はそう確信しました。でも、解明までには10年以上の歳月が流れていました。
エストリオールは特許を取得している化学物質ではないので、製薬会社は関心を示さなかったそうです。そのため彼女は国立衛生研究所(National Institutes of Health)や全米多発性硬化症協会(National Multiple Sclerosis Society)のほか、複数の財団にも頼りました。その中にはグラッサーさんの家族が設立した財団も含まれています。
最終的にヴォスクールは試験に必要な数百万ドルを集めて、一般的なMS治療薬Copaxone(コパキソン)を服用中の女性患者を対象に2年間のエストリオール試験を実施することができました。この試験が成功したことで、米食品医薬品局(Food and Drug Administration)への承認申請を可能にするさらに大規模な試験への道が開かれています。
グラッサーさんは、いずれエストリオールがMSの治療として承認されることに自信を持っており、米国で初めて処方される人たちの一人になれたらと思っています。