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2012-02-09

ソース(記事原文):サイエンティフィック・アメリカン

マウスにおいてアルツハイマー病の症状が改善

マウスに投与した抗がん剤が、脳に障害を与えるタンパク質を除去し、数日以内に認知機能の改善をもたらしたとはいえ、ヒトにも作用するのだろうか?

サイエンティフィック・アメリカン(2012年2月9日)― ゲアリー・スティックス(Gary Stix)著

約13年間皮膚がん治療薬として使用されてきた薬剤が、アルツハイマー病の分子的兆候を迅速に軽減させ、脳機能を改善させることが、新たなマウス試験の結果により明らかにされるとともに、極めて有望な結果として支持されている。ヒトにおける早期臨床試験が数ヵ月以内に開始される見込みである。

サイエンス(科学誌)2月9日号オンライン版に掲載された本研究では、クリーブランドのケースウェスタンリザーブ大学(Case Western Reserve University)の研究者らが、アルツハイマー病のいくつかの症状を示すための遺伝子改変マウスを使用した。中でも注目すべきは、マウスがアミロイドβペプチド(神経細胞を妨害して細胞死を引き起こす有毒なタンパク質断片)を産生すると、もの忘れの徴候が認められたことである。

ゲアリー・ランドレス(Gary Landreth)氏率いるケースウェスタンの研究チームは、1999年に皮膚T細胞リンパ腫の適応で認可されたベキサロテン(ターグレチン)を試すことに決めた。同チームがベキサロテンを選択したのは、アミロイドβタンパク質に影響を与える生化学過程を誘発する脳細胞の核内タンパク質について長年取り組んできた経験からである。

ランドレス氏らは、認知症マウスにベキサロテンを与えたところ、1回分投与しただけで、最も有毒なタイプのアミロイドβペプチドが6時間以内に25%減少し、この効果は最長3日間続いた。アミロイドの蓄積により認知障害のあったマウスが、72時間後に正常な行動を再開した。マウスは巣作りをするため近くにトイレットペーパーを寄せ集め始めた。これはアミロイドが脳内に増加すると失われる技能である。

ランドレス氏は「アルツハイマー病マウスモデルにおいて発見された既知の病理学的特徴および行動欠陥の全てを改善させることに成功した」としている。「マウスモデルにおいて、これほどの速さでアミロイド斑の除去が認められたことはこれまでなかった」という。

ランドレス氏らは、認知症マウスにベキサロテンを与えたところ、1回分投与しただけで、最も有毒なタイプのアミロイドβペプチドが6時間以内に25%減少し、この効果は最長3日間続いた。アミロイドの蓄積により認知障害のあったマウスが、72時間後に正常な行動を再開した。マウスは巣作りをするため近くにトイレットペーパーを寄せ集め始めた。これはアミロイドが脳内に増加すると失われる技能である。

他のアルツハイマー病の研究者らは、本研究を支持している。マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)神経内科学・精神医学教授で同病院のアルツハイマー病研究センター副責任者サミュエル・ガンディ(Samuel Gandy)氏は「極めて有望だと考えている」と話した。「我々の欲しい薬剤リストに25年間にわたり含まれているものの1つには、既存のアミロイド沈着を除去する薬がある」としている。

カリフォルニア大学(University of California)サンタバーバラ校の神経科学者ケネス・コシーク(Kenneth Kosik)氏は「ランドレス氏の論文は強い印象を与えるものである。マウスでの効果は認知能力の一部回復を含め劇的である」と語った。

神経的防除

本研究は、薬剤の無効例が散在する分野において、脳の有毒ペプチドを除去する戦略に効き目があるという希望を与えるものである。ただし、ベキサロテンがこれを直接行うのではなく、むしろ同剤が脳細胞のレチノイド受容体を活性化させることで、脂肪-タンパク複合体であるアポリポタンパク質Eの産生を増加させ、これにより神経細胞間液中の過剰アミロイドの除去が促される。また、同剤は貪食作用と呼ばれる別の精製過程を増強するようにも思われる。

ベキサロテンは、モノクローナル抗体を用いたアミロイド除去方法とは異なった機能を果たす。モノクローナル抗体は医薬品開発パイプラインに沿って進んでいる。これらの抗体は直接アミロイドに結合して除去を促す一方、脳組織間液を引き起こすことがある。ベキサロテンの場合、こうした脳腫脹を起こしにくいと考えられる。本研究の大半に携わった大学院生(ランドレス氏を指導教官とする)ペイジ・クレーマー(Paige Cramer)氏は「これらの受容体を活性化することによって自然過程を誘発させても、脳水腫に結びつくことはないと考えている」と述べている。経口投与のベキサロテンとは異なり、モノクローナル抗体は静脈内投与する必要があるので煩雑さが増す。さらにモノクローナルが米国食品医薬品局(FDA)の認可を得た場合、著しく高価になるだろう。

本研究は、高齢期のアルツハイマー病の最大リスク因子(1990年代初頭に発見されたアポリポタンパク質E遺伝子)が、新たな治療戦略により屈服させられる仕組みについて、今までで最も説得力のある証拠を提示している。アポリポタンパク質Eの遺伝子には3つの型があり、そのうちの1つはe4変異体というアルツハイマー病の有意に高いリスクを付与するものであり、父母(両者)からの遺伝子コピーを保有する人では80歳時の発症確率が約60%となるが、これに対し一般人口集団における同年齢時の全体リスクは10%未満である。アルツハイマー病の遺伝子として非公式に知られるこの遺伝子変異体は一般的なもので、米国の人口の約20%が1個以上のコピーを持っている。e4保有者はアミロイドを除去する能力が低下しているため、アルツハイマー病になりやすい可能性があるとする仮説は、今回のケースウェスタンの研究で裏付けられているように思われる。

時期尚早?

とはいえ、この考えは広く支持されていない。いくつかの試験から、e4型は別の方法で脳に障害を与える可能性もあることが明らかにされている。具体的には神経細胞間の情報伝達部であるシナプスで生化学的機能を混乱させる方法、もしくは有毒なリポタンパク質の断片を産生して神経細胞を損傷させる方法が可能性として考えられる。もしそうであった場合、この種のアポリポタンパク質Eの産生を増加すると、実は病態を悪化させることになり、ベキサロテンの開発が著しく複雑化することになる。

こうした予想される困難があっても、アルツハイマー病の臨床試験に熟練している一研究者を思いとどまらせるには及ばない。病気に効く薬剤の臨床試験を計画するアルツハイマー病共同研究(Alzheimer's Disease Cooperative Study)を代表するカリフォルニア大学サンディエゴ校のポール・エイセン(Paul Aisen)氏は、毒性作用をもたらしうるe4の過剰産生に関して「特に心配していない」という。また「アミロイドの除去を有意に増強させるとともに、脳内アミロイド量を軽減できれば、成功する可能性は十分ある」とも述べた。セントルイスのワシントン大学(Washington University)の高名なアルツハイマー病研究者デイビッド・ホルツマン(David Holtzman)氏は、ベキサロテンの見通しについては同意見で「ヒトへの検討は有望だと考えている」と話した。

ランドレス氏とクレーマー氏もそう考えていることは確かである。両氏はレックスセプター・セラピュティクス(ReXceptor Therapeutics)社という会社を立ち上げ、同社で今後数ヵ月のうちにヒト予備試験を開始する予定としており、マウスでみられたのと同様に、同剤が血液脳関門を通過し、アミロイドを除去するのかどうかを検討する。このプロセスが起これば、ヒトにおける同剤の有効性に関する臨床試験が年内にも開始される可能性があり、おそらく18ヵ月~3年間継続される。同剤は今年癌の特許権保護を失うが、ケースウェスタンはアルツハイマー病の適応で特許を申請している。

多くの不明点

楽観視するきらいがあるが、この進歩を誇張しないことが重要である、と研究者らは述べている。結局のところ、マウスに効いた薬剤が、必ずしもヒトに役立つとは限らない。それに、本研究で使用した遺伝子改変マウスは、ヒト疾患のあらゆる側面を再現しているわけではない。例えば、マウスは神経細胞死の影響を経験することはない(認知障害があるにもかかわらず)うえに、ヒトにおける進行期の顕著な特徴、つまり神経細胞の死滅を助長すると思われるタウタンパク質の付着成長を発現し始めることもない。エイセン氏は「遺伝子組換えマウスの実験は、ヒトにおける治療効果を確実に予測するものではない。したがって、ヒト試験で対象となる確約(アミロイド斑の除去)が裏付けられるまで、慎重さが必須となる」と述べた。

ベキサロテンはリスクを伴わないわけではなく、心血管疾患と糖尿病にかかわるトリグリセリドおよび血中脂質の濃度を上昇させるものである。ケースウェスタンによるマウス研究では、アルツハイマー病患者の場合、癌治療で用いる経口摂取量よりも少ない量が投与されるため、脂質濃度への影響がそれほどないと考えられ、有益性が得られる可能性を示唆している。同剤による有効性が時間経過とともに続くのかどうかは、また別問題である。アミロイド斑の量(見かけ上は可溶型ペプチドの有毒性は増していないが)が90日後に増大したことから、摂取後長期間経つと、同剤の代謝が異なる可能性が示唆される。

アルツハイマー病の症例数は現在米国で540万人であるが、国の人口統計分析によると高齢化が進むので2050年までに2倍以上に上昇することが予想される。このため新しいアイデアが必死に求められており、マウス試験への熱意につながっている。疾患の経過を深く理解すること(病状は初回症状の10年前または20年前に開始するという知識)で、焦点はより早期治験へと移っている。脳画像診断と脊髄液検査を併せた新技術により、リスクの高い患者を特定し、新薬を試せるかもしれない。ベキサロテンのように経口摂取可能な比較的安価な薬剤は、症状はないがリスクのある患者に処方されると考えられ、コレステロール降下薬のように生涯にわたり服用することになるだろう。

レックスセプター社が臨床試験計画を推進するにあたり、必然的にアルツハイマー病患者の家族の要望に対処しなければならなくなる。ランドレス氏は、本報のような記事を読んだ後に医師を尋ねるのは止めた方がよいと強調している。同氏は「自宅で試さないこと」と注意喚起しており、「なぜなら、我々には投与すべき用量が分かっていないし、投与頻度も分かっていない、それに投与するにあたり微妙な差異があるからである。したがって、適応承認外使用はしないこと」と続けた。ベキサロテンなどの薬剤が、既に神経変性過程が始まっている中期または進行期にも効き目があるのかどうかは明らかではない。

アルツハイマー病治療としてのベキサロテンの根源は、ランドレス氏の細胞受容体に関する長年の基礎研究の結果によるものである。成功すれば、この一見難治性にみえる疾患を治療する新規アイデアが、大手製薬会社の焦点を絞りがちな戦略からもたらされるとは限らないことが証明されることになる。


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