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2011-08-16
ソース(記事原文):サイエンスデイリー
アレルギーマーチを抑える
サイエンスデイリー(2011年8月16日)―一般的には幼児期にアレルギー疾患を発症し、その後重なり合いながらさまざまなアレルギー疾患を徐々に発症することを「アレルギーマーチ」と呼ぶ。親や医師達は、こうした病状が広がりをみせることに苛立ちを覚えている。この30年間、米国、EU、その他多くの国の子供達が、湿疹、食物アレルギー、花粉症、喘息の急増によって悩まされている。
何が原因でアレルギーマーチが起こるのか、またどうすればマーチから外れることができるかについては依然として解明されていない。この度、今週号のネイチャー(Nature)において、ペレルマン・ペンシルベニア大学医学大学院微生物学部(Microbiology at the Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania)の準教授であるデイビッド・アーティス博士(David Artis, PhD)と共同チームの国際的な科学者らは、TSLPタンパクの発現が、白血球の中でも数が少ない好塩基球の成熟を制御することにより、多発するアレルギー疾患への感受性に影響を与えることを特定した。具体的には、TSLPは型が異なる好塩基球の成熟を誘発しており、この好塩基球の集団がアレルギー性炎症を促進する。
「アレルギーマーチに関する根本的な疑問は、例えば皮膚の細胞のTSLP産生に伴う湿疹がみられる小児の場合、なぜ、そうした小児らの一部ではそれ以降に腸や肺といった体の各種部位で他のアレルギー疾患が起こりやすくなるのかということである。」とアーティス氏は問いかけている。「TSLPは長年にわたりアレルギー疾患と関連することが知られている。しかしながらこの生物学的メッセンジャーが、アレルギー疾患の多発にどのように影響しているのかについては謎である。」
炎症性サイトカインTSLPをコードしている遺伝子の多型が、多発するアレルギー疾患の起こりやすさと関連していること、また過剰なTSLP産生が小児の喘息、湿疹、食物アレルギーと関連することがこれまでの研究報告により明らかにされている。今回の研究は、そうした研究に基づくものである。また、それら研究報告から、TSLPは多発するサイトカイン関連アレルギー性炎症疾患の重要な制御因子であることが示唆されている。
今回の新たな報告では、TSLPを過剰発現しているマウスの肺、皮膚、腸にはアレルギー性炎症がみられ、それに伴い好塩基球数は極めて高いレベルにあった。「研究結果として重要であったのは、TSLPは骨髄中で早期段階にある好塩基球を成長・成熟させると考えられること、またTSLPは型の異なる好塩基球を誘発するということである。」アーティス研究室のルースL.キルシュシュタイン国立研究サービス・フェロー(Ruth L. Kirschstein National Research Service Fellow)であり、第一著者のマーク・シラクサ博士(Mark Siracusa, PhD)はこのように説明している。これらの結果を基に、研究者らは成熟したこの好塩基球がさまざまな組織でのアレルギー反応を促進すると推測している。
これら研究結果を患者集団に応用するため、アーティス氏と同僚らはフィラデルフィア小児病院(Children's Hospital of Philadelphia)の小児科医のグループと協力して、小児における好塩基球の反応について検討した。対象となったのは、食道の炎症を引き起こす食物アレルギー関連疾患の好酸球性食道炎に悩まされている小児らであった。これまでの研究から、TSLPは食物アレルギーの患者で過剰発現していることが明らかにされている。研究チームはネイチャー誌の中で、食物アレルギーの小児では、そうでない小児と比較して好塩基球に異なる分子構造がみられたことを明らかにした。
「ドイツのパウル・エールリッヒ(Paul Ehrlich)によって好塩基球が最初に発見されてから130年以上経った今でも、この細胞集団に関して新たな事柄を発見しているというのは有望なことである。これらの発見はアレルギー疾患を予防したり、あるいはそうした疾患に高い効果を発揮したりする新たな薬剤の設計に有用である。」とアーティス氏は結んでいる。
アーティス氏の話では米国人の50%以上が少なくとも1つのアレルギー疾患に悩まされていると推定され、研究チームはTSLPと好塩基球を研究対象とすることで、アレルギー疾患の多発に対する新たな治療法を提供できるかもしれないと期待している。
アーティス氏とシラクサ氏の他に、共同著者はスティーブンA.サエンス氏(Steven A. Saenz)、デイビッドA.ヒル氏(David A. Hill)、ブライアンS.キム氏(Brian S. Kim)、トラビスA.ドエリング氏(Travis A. Doering)、E.ジョン・ウェリィ氏(E. John Wherry)、タク・カンバヤシ氏(Taku Kambayashi)(ペンシルベニア大学);マークB.ヘッドリー氏(Mark B. Headley)、スティーブンF.ジーグラー氏(Steven F. Ziegler)(ワシントン大学医学部ベナロヤ研究所(Benaroya Research Institute, University of Washington School of Medicine));ヘイディK.ジェサップ氏(Heidi K. Jessup)、ローリー・シーゲル氏(Lori Siegel)、マイケルR.コモ氏(Michael R. Comeau)(アムジェン社、シアトル(Amgen Inc., Seattle));エミリーC.ドゥーデック氏(Emily C. Dudek)、アントネッラ・チャンフェローニ氏(Antonella Cianferoni)、ジョナサンM.スパーゲル氏(Jonathan M. Spergel)(フィラデルフィア小児病院);マサト・クボ氏(Masato Kubo)(理化学研究所横浜研究所、東京理科大学(RIKEN Yokohama Institute, Tokyo University of Science))である。
この研究は、米国立衛生研究所国立アレルギー・感染症研究所(the National Institutes of Health National Institute of Allergy and Infectious Diseases)、およびバロウス・ウェルカム・ファンド(Burroughs Wellcome Fund)の支援を受けた。