不眠症
不眠症
◆睡眠障害-不眠症とは◆
人間は1日のうちの約8時間、つまり人生の1/3を眠って過ごすと言われています。ところが、この睡眠が実際の生命維持に具体的にどのような役割を果たしているかは、いまだに解明されていません。
にもかかわらず、その不足が疲労感、情緒不安定、また判断力の低下など身体、精神・感情に好ましくない影響をもたらし、生活の質を低下させること、また、睡眠時無呼吸症候群といったような睡眠時の呼吸停止や低呼吸といった異常は高血圧、心臓病、脳卒中などを増悪要因であることなどが知られていることから、睡眠には疲労回復、ストレスの解消、免疫機能の向上、ホルモン分泌の促進などの役割があるとされ、量的、質的に快適な睡眠は、身体の健康、及び健全な日常生活や社会生活の営みには欠かせないとされてものとされています。
この睡眠に関して何らかの異常がある状態が睡眠障害です。
睡眠障害は、睡眠障害国際分類(ICSD)によって、不眠症やナルコレプシー(居眠り病)といったような睡眠そのものに問題がある「睡眠障害」、睡眠中に歩行、ねぼけ、いびきや歯ぎしり、夜尿といった身体機能の異常が現れる「睡眠時随伴症」、うつ病や精神的な落ち込み、または認知症やパーキンソン症候群、てんかんといった神経疾患を始めとした様々な身体疾患によって睡眠が阻害される「内科、精神科的睡眠障害」、それからこれらのいずれにも当てはまらない「その他」に分類されています。
その中で最も一般的なものが、「睡眠異常」のひとつで、現在日本人の約10人に1人が悩んでいるとされている不眠症です。
不眠症とは一過性の不眠とは異なり、寝付けない(入眠障害)、夜中に何度も目が覚め、その後なかなか寝付けない(中途覚醒)、朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)、眠った気がしない(熟眠障害)といった症状が週に3回以上見られ、その状態が1カ月以上継続するという慢性的な不眠状態で、尚且つそのことにより本人が苦痛を感じているか、或いは日常生活や社会機能に支障をきたしている状態を指します。
その発症原因は様々でうつやストレスといった精神的要因、身体疾患や不調といった身体的要因に加えて、24時間社会の拡大による生活サイクルの乱れや、覚醒と睡眠を司っている体内時計のバランスの乱れといったものが関わっていると考えられています。
睡眠障害による慢性的な睡眠不足は、心身に悪影響を及ぼし、日常生活に支障をきたすばかりでなく、集中力や記憶力、思考力が低下することによって学業や仕事に支障をきたすばかりか、日中に強い眠気に襲われて思わぬ事故を招く危険性もあります。
また、心や体の病気の症状として睡眠障害が表れていることもあることから、睡眠障害が長期に渡って継続するような場合には専門医の診断を受け、その原因の解明し、適切な治療を受けることが必要です。
睡眠障害は、規則正しい生活、食事習慣の見直し、適度な運動、快適な睡眠のための環境を整えるといったことによって、基本的に改善することができるとされています。
しかし、中にはそれでも症状に効果が見られないこともあり、そのような場合には、睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)などを用いた薬物治療が必要とされることもあります。
◆不眠症の種類◆
*入眠障害
寝付くまでに30分から1時間以上かかり、寝付くことが困難な状態。
不眠症の中でもっとも多くの人に見られる症状とされています。
*熟睡障害
睡眠時間は十分にもかかわらず眠りが浅いために、ぐっすりと眠ったという感覚が得られない状態。
*中途覚醒
寝ている途中に何度も目が覚める状態。
特に高齢者に多く見られるとされています。
*早朝覚醒
通常の起床時間よりも早く眼が醒め、それ以降寝付けない状態。
うつ病の人によく見られる症状といわれています。
◆睡眠障害の治療法◆
睡眠障害の治療はその原因によって異なります。
睡眠障害が精神的、身体的疾患によってもたらされている場合には、その根源となる疾患の治療がまず行われ、また生活習慣の乱れが原因とされる場合には、起床、就寝時間を一定にする、安眠を妨げるような食品や嗜好品の摂取や暴飲暴食の回避、安眠に快適な環境を整える、就寝前にリラックスする時間を持つなどといった非薬物的対処がとられます。
大抵の睡眠障害がこのような対処法によって改善するとされていますが、症状に改善が見られず、日常生活に支障をきたしているような症状においては睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)を用いての薬物治療が必要となります。
◆睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)の種類◆
現在、睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)として用いられているものには、中枢神経の働きを抑制することによって精神的な緊張の緩和や、筋弛緩作用といったリラックスした状態を作り出し、催眠効果を誘発するもの、抗うつ剤や抗ヒスタミン薬の副作用である眠気を効能としたもの、既日リズム(体内時計)の乱れを調整する作用によるものなどがあります。
睡眠薬(睡眠補助薬/催眠薬)というと依存性や重篤な副作用の印象がつきまといますが、これは、以前に広く使用されていたバルビツール酸系睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)において、依存性や過剰な量の摂取による致死性の高さなどの問題があったことによります。
しかし、現在ではこの問題点を改善し、安全性を向上させたベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系睡眠補助薬(睡眠薬/催眠薬)が睡眠障害治療の主流となっており、医師の指示に従って適切に使用されれば、全く問題はないとされています。
一般に医師によって睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)として処方されているものは、脳の抑制性神経伝達物質であるギャバ(ガンマアミノ酪酸、又はGABA)の鎮静作用を増強することによって催眠効果を誘発する中枢神経抑制薬となります。
ギャバ(ガンマアミノ酪酸、又はGABA)は、ギャバ受容体と結合し、受容体を活性化させることで初めてその作用を発揮しますが、中枢神経抑制薬には、ギャバと受容体の結びつきを促進させ、ギャバ受容体の活性化を推進し、その鎮静、催眠効果を引き出させる作用があります。
しかし、世界で初めて開発された中枢神経抑制性睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)であるバルビツール酸系の薬は、強い鎮静、催眠効果を発揮する一方で、耐性が形成されやすく、深刻な禁断症状を引き起こしやすい上、治療量と致死量が近いという数々の問題点を抱えていました。
そのため現在では、バルビツール酸系の薬はほとんど使用されることはなくなり、代わりに耐性、依存性、副作用が比較的少なく、また致死量のレベルも低いベンゾベンジアゼピン系睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)、非ベンゾジアゼピン系、チエノジアゼピン系の睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)が睡眠障害第一選択薬となっています。
また、睡眠補助薬は、作用時間によって超短時間作用型、短時間作用型、中間型、長時間作用型に分類され、適用する不眠症の症状に使い分けられています。
さらに、一過性の不眠に対する対処療法としては、抗ヒスタミン作用による眠気の誘発を利用した睡眠導入剤などが市販薬として販売されています。
※超短時間作用型
作用時間が4時間以内のもので、一般に睡眠導入薬と呼ばれ、主に入眠障害の治療に用いられます。
※短時間作用型
作用時間は4-10時間程度、入眠障害や、中途覚醒の治療に用いられます。
※中間型、長時間作用型
作用時間は10時間以上で、早朝覚醒や熟眠障害の治療に用いられます。
◆中枢神経抑制作用による睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)◆ |
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1. 超短時間作用型 |
2. 短時間作用型 |
3. 中間型、長時間作用型 |
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◆睡眠補助薬(催眠薬/睡眠薬)その他◆ |
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1. 抗ヒスタミン薬による副作用を活用したもの |
2. 抗うつ剤の鎮静作用を活用したもの |
3. 体内時計を整えるもの |
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