性器ヘルペス
性器ヘルペス
性器ヘルペスとはヘルペスウイルス科によって性器及びに強い痛みを伴う小さな水泡が多発する性感染症です。
ヘルペスウイルス科には約100種類が確認されていますが、人間に感染するヒトヘルペスウイルス(Human Herpes Viruses: HHV)はその中の8種類になります。
性器ヘルペスを発症させるものは単純ヘルペスウイルス1型、及び2型(Herpes Simplex Virus : HSV-1、-2)と呼ばれる2タイプです。
性交によって感染し、性感染症である性器ヘルペスを引き起こすのは2型(HSV-2)です。1型(HSV-1)は唾液を介して感染するタイプで、もともと口唇ヘルペスの原因でしたが、オーラルセックスによって性器へ感染する場合もあります。
単純ヘルペスウイルス1型と2型は神経細胞が集中している神経節に持続潜伏し、体力が低下している時などに再発を繰り返します。
**水ぼうそうや帯状疱疹もヘルペスウイルスの一種によって発症させられる症状です。
これらの原因となっているのが水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus、或いはHHV-3)です。
水痘帯状疱疹ウイルスは単純ヘルペスウイルス系ではありますが、単純ヘルペスウイルスとは明確な相違点がいくつか認められるため、単純ヘルペスウイルスとは区分されています。
◆性器ヘルペスの感染経路◆
単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)は、性行為によって感染者の病変部が非感染者の皮膚や粘膜に接触することによって感染します。
病変(水疱)が現れている時期はウイルスの感染力が特に強くなっている時期となりますが、明らかな病変が認められない時でもウイルスは体液に排出されているため、感染する場合もあります。
また、近年はオーラルセックスが一般的になったため、口から性器へ、或いは性器から口への感染も多くなっています。
単純ウイルスは感染力が高く、病変に触れた手で目や口などの粘膜や皮膚に接触するとそこから感染して口唇ヘルペスや角膜ヘルペスなどを発症することもあるため、感染者の病変部には触れないようにする必要があります。
妊婦が分娩時にヘルペスに感染していると産道感染し、新生児ヘルペスを引き起こす可能性があります。
母体が初感染の場合の母子感染率は50%にもなると言われています。
特に新生児全身型ヘルペスは血液を介してウイルスが全身に広がるため、肝臓、副腎、肺などの内臓が感染し、死亡率が30~40%にもなる危険な感染症です。
また、新生児中枢神経型ヘルペスはウイルスが神経細胞に感染するため神経障害などの後遺症を残す可能性が高いとされています。
分娩時にヘルペスを発症している場合、帝王切開などで新生児への感染を防ぐこともできますが、新生児感染のほとんどが母体の無症候状態時の感染によるものと言われています。
◆症状◆
性器ヘルペスの症状は大きく分けて初感染によって起こる初発(急性型)と、潜伏していたウイルスによる再発(再発型)があります。
一般的に急性型においてはより重い症状が現れ、再発における症状は軽くなる傾向があります。
また、感染後無症候であったウイルスが免疫低下によって初めて症状が発症する(誘発型)場合もあります。
1: 急性型(初感染初発型)
感染後およそ2~20日後、感染部位の不快感、痒みや痛みといった前駆症状が現れます。
続いて多数の水ぶくれが形成されますが、間もなく潰れて潰瘍状になります。
この時に38℃以上の発熱、全身の倦怠感、疼痛、足の付け根のリンパ節の腫れなどが現れる場合もあり、また、歩行障害をきたすほど強い痛みがある場合もあります。
女性においては感染が膀胱や子宮頸管にまで拡がると排尿痛を伴なうこともあります。
さらに感染が髄膜にまで進行すると、髄膜炎を発症して激しい頭痛、排尿困難等の症状があられます。
これらの急性型症状は無治療でも2~4週間ほどで自然に緩和、治癒していきます。
ただしこのような急性型症状を経験するのは感染者のうち約半数であるとされており、全ての感染者において症状があらわれるわけではありません。
2: 再発型
性器ヘルペス感染者のうち約8割が感染後、或いは急性型症状治癒後1年以内に再発型症状を経験するとされています。
再発は心身の疲労、月経、性交などの刺激が誘因となって潜伏しているウイルスが再活性化されることによって引き起こされると考えられています。
再発型症状は急性型と比較して軽度のものが多く、小さめの潰瘍や水疱が数個できる程度です。
急性型と同様に、症状が出る前に不快感、痒みや痛みといった前駆症状が現れる場合もあり、このような不快感や痛みは他の再発型症状がなくなっても続くことがあります。
再発型症状は通常1週間ほどで治癒しますが、ウイルスが体内に潜伏した状態が続くため、再発は繰り返されます。
3: 誘発型
性器ヘルペスに感染者で無症候状態であった感染者が抗ガン剤、副腎ホルモン剤などの投与、放射線照射、手術、及び妊娠などで免疫抑制状態になった時に潜伏ウイルスの再活性化によって症状があらわれるものです。
その症状は感染者の免疫抑制状態によって異なりますが、たとえばHIVやエイズによって免疫機能が著しく低下している場合は急性型のような重度の症状が現れ、治癒しにくいと言われています。
急性症状
男性 |
女性 |
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感染部位の不快感、痛痒さ |
亀頭 |
感染部位の不快感、痛痒さ |
外陰部周囲 |
リンパ節の腫れ |
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リンパ節の腫れ |
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筋肉痛、神経痛 |
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筋肉痛、神経痛 |
|
発熱、頭痛、倦怠感 |
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発熱、頭痛、倦怠感 |
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疼痛、歩行障害 |
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疼痛、歩行障害 |
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排尿痛、排尿困難 |
尿道 |
排尿痛、排尿困難 |
髄膜 |
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おりものの増加 |
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再発症状
感染部位の不快感、痛痒さ |
陰茎 |
外陰部周囲 |
◆潜伏期間◆
急性型発症 約2~10日ほど
◆性器ヘルペスの治療法◆
性器ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスの1型と2型を根治できる治療薬というものは現在のところ存在しません。
また急性型(初感染初発型)の症状が治癒しても、潜伏ウイルスの再活性による再発を防ぐことはできません。
ただし治療によって病状の不快感を緩和し、治癒までの期間を短くすることは可能であり、根気よく治療することによって、再発の回数もある程度抑制することができると言われています。
トヤマ堂で販売しているアシクロビルを有効成分とする『ゾビラックスクリーム』、『ゾビラックスクリームポンプタイプ』及び『ロビール 200mg』、『ロビール 400mg』、『ロビール 800mg』は単純ヘルペスウイルスのDNA合成を阻害することによってウイルスの増殖を抑える、ヘルペス治療薬の第一選択薬です。
DNA鎖を構成する核酸はアデニン、グアニン、チミン、シトシンの4種類の異なる塩基を持つヌクレチオドが配列して繋がることによって構成されています。
アシクロビルはこのグアニンの前駆体となるグアノシンと非常に構成が似ている物質で、ウイルスのチミジンキナーゼと言う酵素によってリン酸化されたあと、さらに細胞のリン酸化酵素によってアシクロビル三リン酸という物質に変換されます。
単純ヘルペスウイルスは自分のDNAを複製する過程において、本来必要となるグアニンではなく、より親和性の強いアシクロビル三リン酸をDNA鎖の中に取り込んでしまいます。
しかしアシクロビル三リン酸はグアニン(リン酸化されたグアノシン)と異なり他のヌクレチオドと結合する部分がありません。
そのため核酸を伸長させてウイルスDNA鎖を合成することが不可能になります。
その結果ウイルスのDNAの合成が停止させられ、ウイルスの増殖が抑制されます。
またアシクロビル三リン酸がウイルスのDNA鎖に組み込まれ、DNA鎖の伸長が停止するということは、ヌクレチオドを結合させてDNA複製を触媒するDNAポリメラーゼという酵素の働きが阻害されることにもなります。
アシクロビルは不活性物質として投与され、体内でウイルスに感染した細胞内によるウイルス性チミジンキナーゼによって初めて活性化されるため、非感染細胞への影響はほとんどないといわれています。
神経節内の潜伏期間中のウイルスはDNAの合成を行いません。
アシクロビルはウイルスのDNA合成を阻害することによるウイルスの細胞内増殖に対して有効であるため、神経節内潜伏しているウイルスには効力がないと考えられています。