チロノーム125mcgは、甲状腺障害や手術で不足した甲状腺ホルモンを補う甲状腺ホルモン剤で、主に粘膜水腫、クレチン病、甲状腺機能低下症(原発性および下垂体性)、甲状腺腫などの治療に使用されます。また、甲状腺腫瘍を抑える目的で使用されることもあります。
甲状腺ホルモンはエネルギー代謝や循環、内分泌機能、生殖など、全身の代謝を活発にするホルモンで、喉元にある甲状腺と呼ばれる器官から分泌されます。正常な状態では、脳下垂体から出る甲状腺刺激ホルモンの作用によって適度な分泌量になるようにコントロールされていますが、何らかの原因により甲状腺ホルモンの合成や、分泌機能の一部もしくは全部が障害されて血中甲状腺ホルモンが低下すると、甲状腺機能低下症が起こります。
甲状腺機能低下症になると全身がエネルギーを利用できなくなるために、無力感、皮膚の乾燥、低体温、眠気、体重増加、便秘、脱毛、易疲労、記憶力低下などの症状がみられるようになります。しかし、機能低下が軽度の場合は症状も明らかではないため発見が遅れることもあり、また症状が重度になると、粘液水腫と呼ばれる粘液状物質でできたむくみが顔や四肢を中心とした全身に生じることもあります。
甲状腺機能低下症が起こる原因には、慢性甲状腺炎などによる原発性甲状腺機能低下症のほか、先天性甲状腺機能低下症であるクレチン症や異所性甲状腺腫など先天的な原因、産後やヨードの過剰摂取などによる一過性のもの、術後甲状腺機能低下症やアイソトープ治療後甲状腺機能低下症など、甲状腺の病気の治療に起因するものなどがあります。
原因が一過性であれば、その原因を解決することで甲状腺機能の低下はほとんど回復しますが、それ以外の場合は不足している分のホルモンを補うことに治療の重点が置かれます。その薬物治療に使用される薬のひとつが、チロノーム125mcgです。
甲状腺ホルモンには、その構造中にヨウ素が3つ含まれたトリヨードチロニン(トリヨードサイロニン)T3とヨードが4つ含まれたチロキシン(サイロキシン)T4の2種類がありますが、このうちトリヨードサイロニン(T3)の方が甲状腺ホルモンとしての作用が数倍強いといわれています。チロノーム125mcgの有効成分であるチロキシンナトリウムはロキシン(T4)で、体内でトリヨードチロニン(T3)へと代謝された後に効果を発揮すると考えられています。
チロノーム125mcgは1日1回の服用で安定した薬の濃度を保つことができるだけでなく、甲状腺ホルモンを補うことで基礎代謝を増大させ、コレステロール量の減少や、水・電解質の排泄の増加などの効果を発揮することが確認されています。