キュービル・キットは、1日1シートを服用するHIV治療薬です。1日分の服用量に相当する4種類のHIV治療成分のうち2種類ずつが2錠に分かれているため、薬の混同や飲み忘れなどを防ぐことができます。
HIVはヒトの免疫細胞に感染して免疫細胞を破壊し、最終的にエイズ(AIDS)と呼ばれる後天性免疫不全症候を発症させるウイルスです。通常、ウイルスはDNA(デオキシリボ核酸)が自身をコピーすることで合成し、増殖するのに対し、HIVウイルスは遺伝子にRNA(リボ核酸)しか持っていないため、逆転写酵素によってRNAをDNAに逆転写することでDNAを合成し、増殖していきます。このようなウイルスをレトロウイルスと呼びます。
このレトロウイルスであるHIVウイルスは多数の変異ウイルスの集まりであり、中には薬剤耐性を持つウイルスがいる可能性もあるため、HIVの治療には複数の薬剤が使用されます。通常は2種類の薬剤を組み合わせ、多剤併用療法における背景治療(バックボーン)とした基礎薬(ベースドラッグ)に、作用機序が異なる別系統の主要薬(キードラッグ)を加えることで、強力かつより確実な治療を行ないます。
キュービル・キットには4種類のHIV治療に有効な成分が含まれていますが、このうちベースドラッグとなるのが、ヌクレオシド系の逆転酵素阻害剤に属するフマル酸テノホビルジソプロキシルとエムトリシタビンです。ヌクレオシド系の薬剤は、ウイルスが逆転写を開始する際に、ニセの核酸を結合させることでDNAの合成を阻害する働きをします。
そのほかの成分であるアタザナビルは、プロテアーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害して細胞に感染性を持つ成熟ウイルスへの移行を阻止し、細胞の増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬です。抗ウイルス作用が強く、高い有効率を持つことから、プロテアーゼ阻害薬をベースとした治療を行なう場合のキードラッグとして推奨されています。
また一般には、リトナビルをブースターとして併用します。これにより、多くの薬剤の代謝・分解にかかわる酵素であるCYP3Aの働きを阻害し、併用する薬剤の分解を抑制してその血中濃度を高め、作用の増強が期待できます。
HIVの薬剤療法は、ウイルスの活動を抑えるために1日に何種類もの薬剤を服用する必要があるため、飲み忘れや服用の煩わしさなどが問題となっています。ところがキュービル・キットは4種類の成分を2錠に分け、また1日に必要な分量が1セットになっていることから、これらの問題に悩まされない薬物治療を可能にしてくれます。