オルシベスト10mgは気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、気管支拡張症に基づく気管支けいれんの緩解および、心臓の刺激伝導障害(心ブロック)、アダムス・ストークス症の治療薬です。
気管支けいれんは、呼吸に必要な酸素の通り道である気管が、薬剤、特定の物質などに対して過剰に反応することで、気管支の平滑筋収縮による気道の狭窄、気管支粘膜のむくみ、痰の増加などが起こる喘息様発作です。 まず、気道や気管が狭くなるために胸がつまるような初期症状がみられ、続いて狭い気管を通る空気によって発するヒューヒュー、ゼーゼーといった呼吸音である喘鳴(ぜんめい)に進展していきます。さらに症状が悪化すると呼吸困難を引き起こし、最悪の場合は窒息死に至ることもあります。
気道の狭窄は平滑筋の収縮が原因ですが、この収縮に関与しているのが交感神経です。神経の末端から放出されたアドレナリン、ノルアドレナリンという物質が目的の臓器にある受容体と結合することで、その指令を伝達していきます。この交感神経の受容体にはαおよびβの2つがあり、このうち気管支筋の弛緩はβ受容体の刺激によるものです。β受容体はさらに心筋収縮力の増大に関係するβ1と、気管支、子宮などの弛緩・拡張に関係しているβ2に分類することができ、特に気管支拡張剤においては、このβ2受容体に対して選択的に反応を示すものが望ましいとされています。
オルシベスト10mgはこのβ2受容体に働きかける薬です。有効成分のオルシプレナリンが、気管支拡張作用を持つ気管支平滑筋のβ2受容体に作用して気管を拡げ、空気の通りをよくすることで気管支けいれんの症状を改善します。
オルシプレナリンはβ2受容体だけでなく、β1受容体に対しても同様に刺激を与えます。β1受容体は主に心臓に存在し、心収縮力増大と心拍数増加に関係 している受容体です。この心臓を刺激する働きにより、オルシベスト10mgは心臓の刺激伝導障害やアダムス・ストークス症の治療にも使用されています。
心臓の刺激伝達障害は、何らかの原因により刺激伝導系の興奮伝導障害が起こった状態です。心臓には刺激伝導系という電気の回路がめぐっており、洞房結節から発せられる興奮がこの回路を正しく伝わることで心臓は収縮を繰り返します。もし洞房結節から電気刺激が発生しなくなったとしても、少し遅れて心房と心室の間にある房室結節で電気刺激が発生し、またこの房室結節に問題がある場合でも心室の刺激伝導系の一部が働き、心臓を動かす仕組みになっています。この刺激伝導系の興奮伝導障害が起こって刺激の伝達速度が遅延、あるいは途絶する状況が心臓の刺激伝達障害であり、心ブロックです。障害が発生した部位によって洞房ブロック、房室ブロック、脚ブロックなど分類されますが、一般的に心ブロックは房室ブロックを指すことが多いようです。
またアダム・ストークス症は、房室ブロック、洞不全症候群、心室頻拍、心室細動などが原因となって心臓から脳への血流が急激に減少または停止することで、脳に一時的に酸素が行きわたらなくなるためにめまい、失神、けいれんなどを引き起こす病気で、場合によっては死に至ることもあります。
なお、オルシプレナリンの心刺激作用により、心悸亢進などの副作用があることは既知の事実ですが、新たな注意喚起を要するような心臓系の副作用は報告されていません。しかしながら、イギリスで販売されていたオルシプレナリンシロップの使用により心臓系の有害事象発生リスクが臨床上の有用性を上回ることがわかったため、現在ではオルシプレナリンが使用される機会はあまりありません。