エメセット4mgは、がん治療の化学療法および放射線療法による吐き気や嘔吐を抑える薬です。
また術後の吐き気や嘔吐(PONV)を予防する目的で使用されることもあります。
がん治療における化学療法とは、全身に散在しているがん細胞を薬で攻撃する全身療法で、俗に言う抗がん剤が使用されます。
この抗がん剤は、がん細胞に直接または間接的に作用することでその増殖を抑え、死滅させることを目的としています。
しかし抗がん剤は、がん細胞を殺すと同時に骨髄細胞、毛髪細胞、胃腸粘膜などの正常な細胞をも破壊してしまうため、脱毛、出血、皮膚の黒ずみ、吐き気、嘔吐などの副作用が生じます。
従って、通常は抗がん剤と同時にその副作用を抑える薬が処方されますが、中でも抗がん剤の吐き気・嘔吐の症状に対して優れた効き目を現わすのがエメセット4mgです。
抗がん剤が嘔吐をもたらす原因は、胃腸細胞から神経伝達物質であるセロトニンを大量に放出させ、これがCTZ(化学受容体引金帯)と呼ばれる領域を刺激する、または胃腸に分布する迷走神経(心臓、肺、気管支、胃腸菅、肝臓、すい臓に分布する最も重要な副交感神経)末端のセロトニンの5-HT3受容体と結合することで、直接あるいはCTZを経由して延髄の背外側網様体に存在する嘔吐中枢に伝達されるためであると考えられています。
CTZは第四脳室の最後野の血液脳関門延髄外に位置する吐き気・嘔吐の情報を伝える受容器で、血中の抗がん剤の刺激を直接受けるため、この部分に多く存在するドパミンD2受容体とセロトニン5-HT3受容体に情報が伝達され、吐き気や嘔吐を引き起こします。
これらの理由以外にも、過去の抗がん剤服用時に嘔吐のコントロールが不充分だったため、その不快な経験や記憶がトラウマとなって起こる場合もあります。
また放射線療法においては、吐き気や嘔吐を引き起こすことはほとんどないと言われていますが、全身照射、腹部上部(胃など)、脳などに照射を受けた場合は比較的起きやすいようです。
エメセット4mgは、抗がん剤により腸管細胞から放出されたセロトニンが求心性迷走神経末端の5-HT3受容体に結合するのを競合的に拮抗阻害し、またCTZに存在する5-HT3受容体にも直接作用することで制吐効果を発揮する薬です。
嘔吐の副作用が強いシスプラチンなど白金製剤の抗がん薬に対しても、塩酸オンダンセトロンと併用することによって、その約8割人に制吐作用が認められるほど、その効果は優れています。
また日本では認められていませんが、海外では塩酸オンダンセトロンの制吐作用は術後の悪心・嘔吐の予防にも使用されています。
術後の悪心・嘔吐は麻酔および外科手術後に約20-30%の確率で発現すると言われ、また女性、非喫煙者、過去の乗り物酔いの発症歴などの因子を持つ人の発症率は70-80%にものぼるそうです。
アメリカでは毎年約3800万件の全身麻酔が行なわれ、そのうちの約39%の人が術後の制吐療法を行なっているとの統計がありますが、このうちの89%が塩酸オンダンセトロンを含むセロトニン(5-HT3)受容体拮抗剤が使用されているとの報告があります。