イバブラッド7.5mgは、従来とは異なる作用機序で、主に冠動脈疾患や安定狭心症、慢性心不全などの症状を改善するための薬です。
冠動脈は、心臓を取り囲むように走り、心臓の筋肉に酸素と栄養を与えている血管ですが、この冠動脈の血管内腔が狭くなることで心筋への血液供給量が減少したり、また血流が途絶えることによって、心筋が必要とする酸素需要量と動脈血からの酸素供給量のバランスが崩れて虚血状態となり、心筋が酸素不足になる状態を冠動脈疾患と呼びます。冠動脈疾患には「狭心症」と「心筋梗塞」の2つの病態があり、虚血性心疾患と言われることもあります。
冠動脈疾患の原因として、血液中の過剰なコレステロールなどの脂質が動脈壁に隆起(プラーク)を引き起こし、ドロドロの粥状物質が溜まることで起こる粥状動脈硬化(アテローム硬化)による血管内腔の狭窄、または血管の収縮によって一時的に狭窄が生じる血管れん縮で起こる冠状動脈の血行障害があります。
また安定狭心症は、発作の起きる状況や強さ、持続時間などが類似しており、いつも一定の範囲内で治まる狭心症を指し、慢性心不全は、心臓のポンプ機能が低下して血液が充分に行き渡らず、全身の臓器や組織に栄養や酸素が送り届けられなくなる症状が慢性的に起こる状態で、左室機能の低下、運動耐容能の低下、突然死の発生などの病態があります。
これらの症状に対する有効な治療のひとつに、心拍数を下げる方法があります。心拍数低下作用を有する薬剤として、神経伝達物質受容体に作用するアデノシン受容体作動薬、M2ムスカリニック受容体作動薬およびβアドレナリン作動性受容体拮抗薬などの薬剤、およびイオンチャネルへ作用するカルシウムチャネル抑制薬などがあり、心筋における酸素の供給と需要との間の平衡失調から生じる種々の臨床症状、例えば狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患、あるいは不整脈、心不全などの循環器疾患の予防および治療薬として有用であることが確認されています。しかしながら、これらの薬剤は心拍数低下作用ばかりでなく、房室伝導および心臓収縮機能に対する抑制作用、あるいは血圧低下作用を有しており、時には完全な心停止につながる作用を発現することがあるため、特に心機能が低下している人への使用が危惧されていました。
その欠点を改善した薬が、イバブラジンを有効成分とするイバブラッド7.5mgです。
心臓の生理的ペースメーカー活動を有する洞房結節や、刺激伝導系を構成する房室結節やヒス束、プルキンエ線維などの細胞では、自発的に電気的興奮を生じることが知られていますが、心臓のペースメーカー活動を有する細胞には心拍調節を行なうIf電流が流れています。このIf電流を抑制することで心拍数を低下させる薬が、洞房結節If電流阻害剤であるイバブラジンです。
イバブラジンは、房室伝導および心臓収縮機能を抑制することなく、心拍数を選択的に低下させ、心筋の酸素消費量を減少させることができるため、房室伝導および心臓収縮機能に対する抑制作用、あるいは心停止作用が無い点で従来の各種受容体作動薬やカルシウムチャネル抑制薬などの活性と区別されています。従ってIf電流阻害薬は、副作用の少ない虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)や循環器系疾患(不整脈、心不全など)の予防および治療に対する効果が期待されています。さらに、麻酔を用いた手術時などにおいて、過度に上昇した心拍数を抑制し、心拍数を一定の状態に管理する場合においても有用であると考えられています。