アトロベント・インヘラー20mcgは、連用することで気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫の気道閉塞障害に基づく呼吸困難などの諸症状を緩和する噴霧式吸入タイプの長期治療薬(コントローラ)です。
気管支喘息は、アレルギーなどが原因となって空気の通り道である気管支に炎症が起き、気道が狭くなることで呼吸がしにくくなる病気で、せき、呼吸困難、喘鳴(喉のゼイゼイ、ヒューヒューといった音)などの症状が繰り返しみられます。
この炎症の特徴は、気管支の粘膜がむくみ、白血球のひとつである好酸球、T細胞というリンパ球や肥満細胞が集まり、粘膜の細胞がはがれることです。
炎症が繰り返し起きると繊維物質が増え、気管支を収縮させる平滑筋が肥大します。
さらに痰の原因となる粘液を分泌する腺が増えることで気管支壁が厚くなり、気管支の内側が次第に狭くなっていきます。
この状態で痰が増えると、さらに気流が通りにくくなり、呼吸が困難になります。
かつては「発作的な病気」とみられていた気管支喘息ですが、以上のような発症機序が解明されてきた今では、「慢性的な気管支の病気」という概念に変わりつつあります。
慢性気管支炎と肺気腫を合わせて、慢性閉塞性肺疾患と呼びますが、日本人の死因の第10位でもあり、女性よりも男性の死亡者が3倍多いという統計があります。
さらに2020年頃には、全世界における死亡原因の第3位になると推測されているほど、現在では重要視されている疾患でもあります。
慢性気管支炎は、「持続性あるいは反復性の痰を伴うせきが少なくとも連続して過去2年以上、毎年3ヵ月以上続く」ことで、起床時にせきを伴った粘液性の痰が出るのが主症状です。
これに感染が加わると痰の量が増え、膿を含むこともあります。
さらに病状が進むと呼吸困難や息切れも起こります。
特に中年以降に慢性気管支炎の症状が現われることが多いようですが、ほかにも喫煙、大気汚染なども深く関わっていると言われています。
また肺気腫は、有害物質により肺の組織が破壊されることで機能低下を起こす病気です。
通常、肺は空気を取り込み、送り出す働きをしていますが、破壊された組織はその働きをしなくなるために取り込む酸素量が減り、また吐き出すこともうまくできなくなるために肺が膨らみ、横隔膜や心臓を圧迫して息苦しくなります。
気道平滑筋の運動は脳から発し、頸部、胸部、腹部に分布している副交感神経系の迷走神経によって調節されています。
気管支喘息や慢性気管支炎の原因となる気道の狭窄は迷走神経終末から放出された神経伝達物質のアセチルコリンが気管支平滑筋上に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体に結合することによって引き起こされます。
アトロベント・インヘラー20mcgは有効成分を臭化イプラトロピウムとする抗コリン薬です。
臭化イプラトロピウムは気管支平滑筋上のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断し、迷走神経終末から放出されたアセチルコリンが受容体へ結合することを阻害します。
この作用によって気管支平滑筋の収縮が抑制され、気道の拡張による呼吸困難を改善します。
気道拡張作用は即効性ではありませんが定期的に使用することによって気道の狭窄を阻害する作用をもたらします。
喘息治療管理ガイドラインでは、気管支喘息の治療に必要な薬剤を2種類に分けています。
長期管理薬(コントローラー)は気道の慢性炎症を予防・改善し、発作が起こらないようにコントロールするための薬で、発作治療薬(リリーバー)は、発作時に気道を拡張して速やかに発作を軽減させますが、根本的な喘息の治療にはなりません。
また使用しすぎると効果が現われにくくなり、コントローラーと比較して副作用が出やすいため、最小限の使用にとどめることがよいとされています。